地震や台風が心配だ。「それじゃあ、こうしませんか。もう一度、おじいさんが建てた部分を残して、母屋だけを建て替えるんです。玄関と座敷は今でもしっかりしているから、ちょっと補強するだけで大丈夫でしょう」。院長夫妻も了承してくださり、医院に続いて院長のお母さんの住む自宅を建て替えることが決まった。まず院長夫妻が古い家に引っ越して、医院を建て替える。次に院長夫妻とお母さんが新しく完成した医院内の息子さんの新居に仮住まいをして、自宅を建て替える。
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最後に院長夫妻とお母さんが新しい家に移り、息子さんが越してくるという段取りだ。ところが、新しい医院が完成し、いざ仮住まいの部屋に移ろうというときになって、思いもかけぬ事態が発生した。お母さんが「主人の家を壊さないで」と言って泣き出したのである。お母さんにとっては、義父が百年前に建てた玄関よりも何よりも、夫が七十年前に建て、二人で暮らした母屋こそが大切な家なのだった。百歳近いお母さんの涙を見ては、院長も私も何も言えない。結局、建て替えは断念。大規模な耐震補強を施すだけで、お母さんと院長夫妻はそのまま古い家に住むことになった。